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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和56年(行コ)6号 判決

鹿児島市吉野町三九八五番地

控訴人

年増高志

右訴訟代理人弁護士

井上順夫

鹿児島市易居町一番六号

被控訴人

鹿児島税務署長

松葉強

右指定代理人

有本恒夫

山下碩樹

城下道明

後藤伸一

河埜述史

山本輝男

宮尾一二三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和五四年九月一三日付でなした控訴人の昭和五三年度総所得の金額を七九万二〇〇〇円、分離課税の短期譲渡所得の金額を六九二万六四二六円、納付すべき税額を二四五万円とする更正処分および重加算税の額を七三万五〇〇〇円とする賦課決定処分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、左記のとおり訂正、附加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

一、1 原判決二枚目表五行目の「譲渡価」から七行目の「本件土地建物」までを「控訴人所有にかかる鹿児島市下伊敷町(表示変更後は、同市玉里団地一丁目)二一七三番地四九の宅地二〇〇・七七平方メートル(以下「本件土地」という。)及び同地上の家屋番号同町二一七三番四九居宅木造セメント瓦葺二階建一棟(床面積一階五二・八二平方メートル、二階二五・六〇平方メートル(以下「本件家屋」という。)」と改める。

2 原判決三枚目表三行目の「鹿児島市」から八行目の「以下「本件家屋」という。)」までを「本件土地、家屋」と改める。

3 原判決四枚目表二行目の「不動産」、同一一行目から一二行目にかけての「不動産」を、いずれも「土地、家屋」と各改める。

二、控訴人の主張

控訴人が、本件家屋を新築し、かつ入居後間もなく肩書地所在の現住家屋へ転居せざるを得なかった経緯は次のとおりである。

1  控訴人は、鹿児島市下伊敷町三一一六番地所在借地上に存する亡父年増精蔵所有の家屋(以下「旧家屋」という。)に妻子とともに居住していたが、旧家屋が老朽化し、親子五人が起居するには手狭となったので、相続によって取得した本件土地を利用して本件家屋を新築することにし、訴外牧清彦に右新築工事を発注したところ、右工事は昭和五三年二月頃完了し、控訴人ら家族は落成間もない本件家屋に同年三月頃入居した。ところが、これを知った控訴人の義父は、借金による家屋の新築に反対するとともに、自己の老令を訴えて義父宅での同居を提案した。義父の右要請は無視することができず、また、当時控訴人の左官仕事も注文が激減し、これに伴ない収入も減少していたことから、本件家屋新築費用として借入れたローンの返済が苦しくなり始めており、控訴人はこれらの事情を勘案して、折角入手した念願のマイホームである本件家屋を手放して借金を解消し、義父宅で生活することを決心した。

2  控訴人ら家族が本件家屋に居住した期間は、前記事情により極く短期間ではあったが、当初は永住目的で入居し、かつ生活の本拠として現実に居住したのであって、予じめ現住家屋への転居計画があったのを秘して、住民票だけ本件家屋所在地へ移すという居住仮装行為をなしたものではない。

本件家屋の昭和五三年三月ないし六月頃にかけての光熱使用関係中、電気に関しては、同年四月一四日新設以前にも工事用として設置されていた電気施設より生活用電気を使用した可能性がなかったとはいえず、また、水道に関しては、本件家屋の水道検針台帳(乙第二八号証)によると、工事用水道の使用期間は「一か月工事中」と記載されているから、同年六月二日検針により示された使用水量一〇立方メートルは、工事用ではなく、生活用としての通常使用分と推認すべきものである。

三、右主張に対する被控訴人の答弁

1  控訴人の主張1のうち、控訴人が家族とともに旧家屋に居住していたこと、訴外牧清彦に本件家屋の新築工事を発注したこと、本件家屋の新築工事が昭和五三年二月頃完了したことを認め、控訴人ら家族が本件家屋に入居したことは否認、その余の事実は不知。

2  同2の主張事実は否認する。

四、証拠

控訴人は当審証人年増キサ子の証言、当審における控訴本人尋問の結果を援用し、乙第三三号証、第三四号証の二の成立を認め、乙第三四号証の一の成立は不知と述べた。

被控訴人は新たに乙第三三号証、第三四号証の一、二を提出した。

理由

一、当裁判所は、当審における証拠調の結果を斟酌し、更に審究しても、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきものと判断するものであって、その理由は次のとおり訂正、附加するほか、原判決の理由の説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決五枚目裏五行目の「建物」を「家屋」と、同八行目の「同」を「昭和五三」と、同一二行目の「出」を「掲」と、各改め、同一二行目から一三行目にかけての「成立に争いのない同第二四ないし」の次に「第二七号証、同第二九ないし」を加え、同一三行目の「第二八号証」を削る。

2  原判決六枚目表九行目の「水道」から同一三行目の「ゼロであること、」までを削除する。

3  原判決六枚目裏二行目の「認められる。」の次に行を変えて、次のとおり附加する。

「なお、原本の存在と成立に争いのない乙第二八号証(本件家屋の水道検針台帳)には、昭和五三年四月二日から同年六月一日までの二か月間における本件家屋の水道使用水量が一〇立方メートルである旨の記載がみられ、控訴人は右検針台帳中、同年四月一日検針の摘要欄に「一ケ月工事中」との記載があることを捉え、右一〇立方メートルの使用水量は工事用ではなく、生活用に使用したものと推認すべきである旨主張するが、右主張は、本件家屋に居住した期間は、同年三月上旬から約一か月間である旨供述する当審証人年増キサ子の証言とも符号せず、また前掲乙第二六号証によれば、本件家屋の給水装置工事は同年三月六日から六月一五日まで掛ったことが認められるから、右使用水量はむしろ工事用に使用されたものと推認するのが合理的であり、右主張をにわかに採用することはできない。

さらに、控訴人は、本件家屋を、僅かな期間居住したのみで手放したのは、控訴人の収入減少により本件家屋建築費用として借入れたローンの返済が苦しくなったためである旨主張するが、成立に争いのない乙三四号証の二によれば、控訴人は本件家屋建築費用として昭和五三年三月二二日鹿児島銀行伊敷支店から借入れた八〇〇万円を、同年七月一九日一時に全額(当時の元利合計七七五万四八一四円)支払うことにより返済していること、しかるに控訴人は、右返済当時、同銀行に定期預金、普通預金九二〇万円余の預金を有しており、右返済に際して右預金は全く引き出されておらず、控訴人の資金関係は可成り余裕のあったことが認められるから、右主張も採用の限りでない。」

4  原判決六枚目裏四行目の「右認定を覆えすに足る証拠はない。」を「右認定に反する前掲乙第一〇号証、原審における控訴本人尋問の結果、当審証人年増キサ子の証言は、前掲各証拠と対比し、そのままこれを措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」と改める。

二、よって、以上と同旨で、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西内辰樹 裁判官 谷口彰 裁判官 大沼容之)

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